『老人と海』ヘミングウェイ いち読者の感想とあらすじ紹介

老人と海/ヘミングウェイ

これは、『最も穏やかな様子で命がなくなる短編小説。』

老人と海

紹介

『老人と海』は、アーネスト・ヘミングウェイの最後の短編小説です。

キューバの老いた漁夫サンチャゴが、メキシコ湾に小舟を浮かべ、一人漁をする。老人のそんな日々から、ある四日間を切り取って書き表したこの作品。

三日間に渡ったサンチャゴの漁は長く、その間老夫の握る綱を引き続けた魚はとても長く生きていて大きいもので、サンチャゴと魚の戦いは厳しい命の奪い合いですが、それは穏やかな文章で書かれています。

それに、サンチャゴが魚を殺し、動かない魚の肉を小舟に括り付けて、それまで三日間魚と進んできた長い道を帰るときも、文章は穏やかです。

私がこの小説を一言で表すならば、これは、『最も穏やかな様子で命がなくなる短編小説。』です。

あらすじ

老漁夫サンチャゴは、もう八十四日間も魚を釣れない日が続いていた。

最初の四十日間は、彼とともに一人の少年が舟に乗ったが、少年は両親の言いつけに従い、今はべつの舟に乗っていた。彼の両親は、老人はサラオ(スペイン語で最悪の事態)になってしまったのだと、少年に言った。

不漁の日が続いて八十五日目、この日も漁夫は舟を出した。

魚がかかるまで、彼は海や、海の上を飛ぶ小さなか弱い鳥のことを考えていた。

海のことを考えるとき、彼はそれをラ・マルと呼んだ。

愛情を込めて海を呼ぶとき、その地方の人々が言うスペイン語だ。その言葉は、海を女性として認識している。

彼が垂らした綱を最初に引いたのははぐれ者のまぐろだった。彼はこれを釣り上げた。次にかかった魚が、彼と長い時間戦い、彼の舟を引いて長い距離を泳いでいく、巨大なカジキマグロだった。

彼はこの大物がエサに食いついたその時から、まだ姿の見えない魚だけに集中し、魚に大きな声で話しかける。

「さぁ来い」

「さ、匂いをかいだ!どうだいすてきだろう?」

「遠慮するなってことよ。さあ食え」

魚は針を刺したまま悠々と、老漁夫の乗る舟を引っ張って海を泳ぎ続ける。

舟では、海中の魚に繋がる綱を抑えながら、老漁夫が魚に話しかけ、座っている。

魚は少しも止まらず、その間老漁夫もほとんど眠らず、舟は海を滑り続ける。

かつて彼は、少年がいっしょに乗っていたとき、まかじきの雌を釣り上げたことがあった。それは夫婦づれだったが、雄はエサを見つけると必ず雌に食わせるものだから、雌がかかった。彼はその雌を打ち殺した。それは彼と少年にとって悲しい事件だった。

大魚と彼との長い命の奪い合いは、三度目の日の出を迎えた。

魚は弱って水面に上がってき、舟に近づいてきた。だが、彼もひどく疲れていた。

「頭よ、しゃんとしろ」

老人は自分でもききとれぬほどの声でいった、

「しゃんとするんだ」

彼は、泳ぎ寄った魚の胸びれの後ろから、心臓を銛で突き、体重をかけてぐいぐいと押した。

感想

このあと、ストーリーは、サンチャゴが仕留めた魚を舟に括り付け、大魚と三日間進んできた海を帰路について、続きます。ずっと不漁だった漁師が大きな魚を仕留めて、お終いではありません。

ですが、この先はそう長くありません。ぜひ直接作品を読んで、この先の展開と、ヘミングウェイの表現に触れてみてください。

この小説を読み通して、私はとくに二つ、感じ取ったことがあります。

そのうちの一つが、『男』という性。

もう一つが、この小説のタイトルに挙げられる、老人と海の関係です。

[老人サンチャゴに見えた、男という性]

老いた漁夫サンチャゴは、貧しく、野球の試合結果を追って新聞を読み、そして八十四日間一匹の魚も釣れていないにも関わらず、それまでの日々と変わらず海に舟を浮かべます。

他の漁夫たちと変わらない毎日を過ごし、他の老いた漁夫たちと同じように海を愛する、忍耐強く優しい漁夫。

これは、サンチャゴが海に舟を漕ぎ出し、大きな魚をひっかけるまでの、彼の印象です。

彼から男という性を見て取れるのは、彼と魚の戦いが始まってからです。

彼は体が痛もうが構わずに全身で綱を抑え、片手が引き攣れると、先に捕っておいた

血ではち切れそうな魚の肉をほおばってエネルギーを取り、まだ戦い続けます。

彼は何があっても、魚との戦いを放棄しようと考えないのです。

また、彼は魚を殺さなければならない運命だと認識しながら、ほんとの兄弟とも呼んでいます。そして、その気高く立派なことを認め、この大魚を食う値打ちのある人間はいないとまで考えるのです。

このサンチャゴの、苦痛を受け入れて逃れようとせず、その上で生業とする魚との命の奪い合いに乗り出し、その魚を大きく美しい兄弟だと認める心は、とても男性的だと私は感じます。

[老人と海との関係]

老人サンチャゴの海への思いは、恋人への情熱ある深い愛にとても似ていると、感じました。

海を女性として、愛を込めて、またののしるときも、ラ・マルと呼びます。

老人にとって、海はいつ如何なるときも、女性なのです。

たとえ荒々しくふるまい、禍いをもたらすことがあったにしても、それは海みずからどうしようもないことじゃないか。

月が海を支配しているんだ、それが人間の女たちを支配するように。

まとめ

これは、『最も穏やかな様子で命がなくなる短編小説。』です。

そして、その主人公である老人サンチャゴからは、『男』という性を感じられました。

老人が愛する海は、『女』なのです。

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