日暮れの窓辺

太陽が傾き、沈み始めて、石畳の一本道を照らしています。もうすぐ外灯夫が日課の仕事を済ませに歩いてくるでしょう。あなたは、仕事を終え、あなたのための帰路をゆったりと歩きます。あなたの街は、愛すべき美しい街なのです。
あなたは、窓の外にくっついたキリギリスを捕ろうとけんめいに手を伸ばす少年に会いました。部屋の中から窓を開けて身をのりだし、伸びるかぎりに手を広げていますが、えものは少年の手のもう少し先にとまっています。
窓の内側に、小さいけれど使えそうな物があります。少年は虫に夢中になって、すっかり忘れているようです。あなたは、少年のそばに見える小さな空きびんを使うよう言いました。
“そうすれば、そのキリギリスはきっとすぐに君のものになるよ。”
少年は一度窓の内側に引っこみ、すぐにまた手を伸ばして、ー今度は空きびんをもってーびんのなかにキリギリスを捕らえました。虫は少年のえものになりました。
“ご親切に、どうもありがとう。”
少年はあなたにほほえみ、朗らかに言いました。少年の声としゃべり方は、小さな生き物を捕らえて遊ぶようなこどものものではありませんでした。
少年は窓から引っ込み、びんを大切に小さなテーブルの上に置いて、窓を閉める前にまた一度顔を出しました。少年の頭がぴょこんと下がって、あなたもそれに応えて会釈しながら、なぜそのキリギリスを捕ったのかたずねました。
“だって、うちのとなりの女の子が、死んだバッファローを飼いたいって言うんだもの。ぼくの図かんに絵がのってたら見せてあげるんだけど、図かんのはみんな生きてるから、死んだやつがないの。だから明日このキリギリスをあげて、『死んだバッファロー』って名前にすればいいと思ったんだよ。”
あなたは、この少年はずいぶん優しいと感じました。
“新鮮な葉っぱをたっぷり、びんの中に入れておやり。”
この子の隣のうちにいる女の子が明日よろこぶといい。
あなたは少年にさよならと言って、またゆっくり歩き始めました。
太陽が沈んで照らすのをやめてしまうより前に、安らかな我が家に帰り着けそうです。
“ごきげんよう、おやすみなさい。”
あなたは後ろ手に、少年に手を振りました。

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