「この“役立たず“な怪物どもの首を撥ねなさい!」
記念すべき今年十三度目の処刑命令。
本日十月十三日、新月が綺麗な予定の昼下がり。
連続二ヵ月と十三日お怒り心頭の女王さまに、ぼくは右手と左膝で地面にキスをした。
「分かりました、女王さま。すぐに、貴女の仰せのままに。」
「わたしを殺せないなんて、役立たずにも程があるわ!チェシャ猫、あなたが首を切りなさ い!」
「ええ、分かりました。女王さま。首は如何いたしましょう?」
「のこぎりで切れなくなったら、骨はハンマーで砕くのよ。きれいにできたのを三つ集めて、台のうえにさらしなさい。わたしあとで、燃やしたいわ。」
「分かりました、レッド・クイーン。全ては貴女の願いのために。」
“死にたがり”の女王のために、トランプ兵が集めたたくさんの怪物。今年の十三番目は、アリスの子供の子供の子供の世界にたくさん生息する「クルマ」。とても速く走り回り、怪力でもって轢き殺す、大きな冷たい量産型怪物。
ギィコギィコとのこぎりが鳴り、首と胴体の幅が広がる。今日もピリピリ女王は怒って、次の怪物をご所望になる。
彼女を殺すバケモノは、果たしてどこにいるのかな。
ぼくは彼女を殺せるけれど。
ぼくは彼女を殺さない。
時が流れて人型になった、透ける猫なんてバケモノだ。
他の住人は変化しないのに、ぼくだけが変わるなんて、ぼくがバケモノである証拠。
ぼくの飼い主は女王のしもべ。女王はずっと死にたがってる。ぼくは女王を殺せるけれど。
ぼくは女王を殺さない。
ぼくは女王を大好きだから。
女王がぼくにどう思っても、処刑宣告したとしても。
ぼくは女王を愛してる。ぼくは女王を殺さない。
女王さまはぼくのものだ。