【第一章:エースって、誰?】
ボクが赤ちゃんのころよく遊んでいたボールのおもちゃ。うすい黄色とうすいピンクの、汚れたフェルトのサッカーボール。縫い目はもともとガタガタで、けっこうほつれたり破れたりしているけど、ボクはけっこうお気に入りだった。もう遊ばないから、小さなカードと一緒に棚に飾ってある。同じような小さなカードと、ほかの古いおもちゃたちと一緒に。
りゅうと「お兄ちゃん、このカード、なんて書いてあるの?」
るい「でぃー、いー、えー…えーっと…」
お兄ちゃんと二人で、小さなカードを覗いて考える。お姉ちゃんなら、けっこう英語を習ってるし、分かるかなぁ。
さくら「どうしたのよ、二人とも。何それ?」
りゅうと「お姉ちゃん!これ、読んで。」
さくら「それ、あなたが赤ちゃんのころに届いた手紙じゃない!読んであげるわ。ディア、リトル、ベイビー。アイ、ウィシュ、ユア、ハ…ハピネス。フロム、エー よ。でも、このAは、エースって読むのよ。」
るい「どうして?」
さくら「トランプの一番はエースって読むでしょう?それと一緒よ。」
るい「へぇ…」
りゅうと「どういう意味?」
さくら「えっと…たしか…しんあいなる?小さな赤ちゃんへ。私はあなたの幸せを…願います…?エースより。よ。」
るい「しんあいなる?って、どういう意味?」
さくら「えっと、それは…大好きな、よ。」
大好きな小さな赤ちゃんへ。私はあなたの幸せを願います。エースより。
エースって誰だろう?ボクのことが大好きで、幸せを願ってくれる人。
さくら「そのボール、そのカードと一緒に送られてきたのよ。エースからのプレゼントね。」
りゅうと「じゃあ、これも?」
棚に飾ってある古いおもちゃとカード。カードは全部英語で書いてあるけど、
最後にFrom Aって書いてある。
さくら「そうよ。そのカードと一緒に送られてきたの。」
りゅうと「へぇ…エースって、誰なんだろう。」
さくら「分からないわ。パパとママの知り合いらしいけど、教えてくれないの。エースとの約束なんですって。」
りゅうと「エース…本当に、誰なんだろう…」
いくつかのおもちゃと、英語で書かれた何枚かのカード。誕生日とか、幼稚園
に入ったときとか、何回も届いているけど…
エースって、誰?
【第二章:エースの願い?】
エースは誰?
そんなことを考えるようになって、三年目。ボクはこのまえ八歳になった。
姉ちゃんは十二歳、兄ちゃんは十歳。
ママ「瑠衣にプレゼントが届いたから、渡してあげて。Aさんからよ。」
ママから小さなカードと可愛い袋でラッピングされたプレゼントを預かった。
カードには、いつものように英語でメッセージが書かれている。
‟Dear Little kid‘s bro
It was a half coming-of-age ceremony.
Congratulations.
Because this book is interesting, I give you it.
From A”
分からない単語だらけだけど、雰囲気は分かる。ボクだってもう三年間英語を
習ってるんだ。
‟親愛なる少年のお兄さんへ
……式だったんだね。
……
この本は面白いから、君に贈るよ。
Aより。“
昨日兄ちゃんが二分の一成人式とか言ってたから、きっとそれだ。Aはよく、兄
ちゃんと姉ちゃんにもカードとプレゼントをくれるから。
龍斗「兄ちゃん、Aからプレゼントだよ!」
瑠衣「えっ、マジ!?ありがとう、えっと…二分の一成人式おめでとうだって!」
龍斗「姉ちゃんのときもくれたよね。ボクは、あと二年かぁ。」
瑠衣「誕生日にもくれるだろ!どんな本なんだろ…星の王子さま?」
姉ちゃんのときは、あしながおじさんだった。ボクのときは、何をくれるんだ
ろう?
龍斗「あっ、カードがはさまってる!」
〝 This book will tell the thing that is very important for you.
I hope that it is so“
龍斗「この本は、君にとってとても大切なことを伝えるだろう。そうなることを願っているよ。だって。」
瑠衣「ええ…子供っぽくない?」
龍斗「読んでみたら?Aがくれたんだし、さ。」
瑠衣「ふーん…まぁ、読んでみるよ。」
龍斗「うん!」
Aは、ボクだけじゃなくて、姉ちゃんと兄ちゃんにもプレゼントを贈ってくれる。
誕生日とか、入学式とか、色んなイベントごとに。
ということは、Aはボクたちのイベントのタイミングを知る方法があるんだ。
なのに、なんで、Aはボクたちと会ってくれないんだろう?