【第三章:たった九歳のI・N幹部 4 】

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【第三章:たった九歳のI・N幹部 4 】

“歌姫”リコリスと“猛獣使い”ウーゴが率いる実動部隊は戦闘部隊となり、大人しいただのピエロではなく一瞬の躊躇もなく僕たちを殺すサイコ・ピエロと戦い、できるだけピエロたちを傷つけないように保護することが新しい任務になりました。

“支配人”レオナルドは、二人の親友を含む戦闘部隊十九名の命を一手に握り、二年間の訓練と任務とで養った瞬間的な機知と高い判断力でもって死守するため、五名の戦闘に出すには未熟な部下を彼の妹に任せ、現地で戦闘部隊を指揮することになりました。

“手品師”である僕は戦闘部隊と司令官のため、最大限の安全と成功率を出せる、戦闘部隊の命を預かる作戦を編み出し、ときにはレオナルドとともに戦闘部隊を直接指揮することが任務になりましたが、サイコ・ピエロが“調教師”の手に負えず、カーリーを補佐することが主でした。

“調教師”カーリーは兄から預かった部下たちとともにサイコ・ピエロを治療することになりました。一つだけ嬉しいことがあったとすれば、カーリーがS・S本部に通わなくてもよくなったことですが、それはサイコ・ピエロを僕たちごとI・N寮内に閉じ込め、本部で治療されている大人しいピエロと本部の大人たちを守るためにとられた対策だったので、手放しで喜べることではありませんでした。サイコ・ピエロの最初の被害者であるカーリーは、隔離されたサイコ・ピエロに、実際に戦うには未熟な部下たちを守りながら立ち向かい、治療しなければならなかったのです。

危険な任務のために僕たち幹部はいつも銃を持ち歩くようになり、銃の撃ち方を知らなかったカーリーはサイコ・ピエロの治療を始める前に毎朝一時間、団長から銃の訓練を受け始めました。最初の一年間、リコリスたちが受けた訓練をもう一度カーリーが受ける時間はありませんでしたが、サイコ・ピエロから身を守るためにはどうしても実弾入りのピストルが必要だったのです。

与えられた銃を撃つのは「どうしても必要なときだけ」にするようにと本部から指令が下りましたが、戦闘部隊とレオナルド司令官の銃の腕は日に日に上達していきましたし、ピエロが脱走することのないように頑丈に設計されたサイコ・ピエロ治療施設が急いで完成させられ、S・S本部の代わりにカーリーがそこに通い始めてからは毎日、作戦改良のための研究中に何度も銃声が響くのを聞きました。また僕も、カーリーの補佐中襲いくるピエロに銃を向け、脅しではなく、本当に狙って引き金を引いたことは、何度もあります。

本来なら、僕たちの任務は大人しいピエロを保護し、大人たちとともに治療するだけでした。サイコ・ピエロの保護・治療を全て僕たちが担わされていなければ、銃なんて撃たなくてもよかったでしょうし、自分が撃った子供の悲鳴とうめき声を聞くこともなかったでしょう。まだ十歳の少女が、自分の命と瞳をペンを握った刺客から守るために腕を傷つけ、自分が撃った子供の傷を消毒し、手当してやることもなかったはずです。

苛烈な任務は僕たちの体力を削り続け、理由もなく向けられる殺意と僕たちに撃たれた子の悲鳴、苦痛のうめきは僕たちの精神を壊していきました。

僕たちの苦悩が終わったのは、僕たちが限界まで実弾を込めた銃をひと時も手放せなくなってから一年が経つ少し前、リコリスの弟マーフィーが最初のサイコパス・ピエロになって一年と半年、最初の部下たちがI・N寮に入って二年、僕がお母さんと二人暮らしていたあの家を出て三年間が経った、雪が解ける冬の終わりでした。

治療中だったサイコパス・ピエロの一人が消え、それと同時にカーリーもいなくなっていたのです。あのピエロが失踪してから、カーリーが見つかるまでの一週間は今でも僕にとって人生最悪の七日間です。汗をかいた手で握る銃のグリップの感触、撃った後の反動を、今でも忘れることはできません。

僕はあのとき、親友であるカーリーを撃ちました。

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