【第五章:秘密会議 2】
穏やかな声で語られた告白が静かに終息し、団長は柔らかく微笑んだまま口を閉ざしました。告白のあいだ誰も声を発せなかった僕たちにとって唯一の音だった団長の声が途絶え、それでも僕たちは誰も言葉を声にしようとせず、沈黙が招かれたかのように自然と五人を包みました。
つまり、この告白は全て冗談でもなんでもない真実で、僕たちは最も信頼する団長に頼らずに四人だけで作戦を完成させないといけないのです。
いや、最初に団長が会議を進めようと席を立った僕を止め、微笑みを浮かべてあの告白を始めたときから、これが冗談なんかじゃないとは分かっていて、現実として受け止めないといけないとは理解していたのですが、それでもどうしても全てを悪い冗談で終わらせて、僕は団長といっしょに作戦を考えたかったのです。
でも、それは不可能なのでした。
僕たちは初めて、いつも僕たちを見守ってくれている団長に振り返らず、親友の一人が欠けた四人だけで、攫われたカーリーと残った僕たち、五人の命を掛けた作戦を立てなければなりません。
沈黙をつらぬいてみんなに守られたしばらくの静寂を破り、団長の穏やかな微笑みを見つめて、リコリスが優しく笑いました。
「団長、あたし、わかったわ。」
優しく穏やかに引き締まった表情で微笑み、彼女は静かに澄んだ声で、ゆっくりと言葉を紡ぎました。
「あたしたち、きっとやるわ。四人だけで作戦を完成させて、彼女を助けだしてみせる。たとえ相手がどれほど訓練された伝説の英雄であろうと、その後ろに彼女がいるなら、あたしたちは絶対に諦めたりしない。貴方に誓うわ、団長。」
柔らかな声で紡がれたけれど確かな決意が満ちたその言葉は、素敵にしなやかな強さで告白の衝撃を呑みこみ、その同じ衝撃に打ちのめされてしゃがみこんでしまった僕たちの心を立ち上がらせ、団長に頼れないことへの不安を三人の親友がそこにいることへの安心と入れ変えてくれました。
そしてまた、リコリスはただ優しさだけに満ちた声で続けました。誰よりも素敵な彼女だけのしなやかな強さは、口を閉ざした団長の柔らかな微笑みに滲むままにされていた悲しみと、まだ抑えつけられ、僕たちに隠されていた苦しみを見逃さず、温かく包みこむことを忘れていなかったのです。
「団長、貴方は、今とても辛いのよ。あたしたちをカーリーがいない不安から助けられず、この告白でさらにあたしたちを追い詰めなくちゃいけなかったから。あたしたちが彼女のために動くのに、団長はあたしたちを見守るしかできないから。貴方は、あたしたちのために微笑んではいても、本当はとても悲しくて、苦しいの。」
優しく穏やかな彼女の声は、僕たちがこれまで何度となく聞いてきた団長の言葉をそのまま宿していました。団長はいつも、僕たちを宥め、慰めるときに、まず僕たちの苦痛を認めてくれるのです。僕たちは、僕たちを認めてくれる団長の穏やかな声と微笑みにたくさん縋り、泣いて、最後には傷を癒して立ち上がってきました。
「あたし、団長がどれだけ辛いのかは想像もできないけれど、でも、辛いことは確かに分かるわ。貴方はあたしたちをとても想ってくれているから、その分だけ辛いのよ。」
あまりに優しく穏やかな彼女の声に、僕たちのために繕っていた微笑みは崩れ、団長の真っ黒な二つの瞳がうるんで艶めきました。ほんのわずか、団長は俯いて、目元を抑え、そして、静かだけれど嬉しそうに笑いました。
「ありがとう、リコリス。そうだね、僕は、たしかにつらかったみたいだ。」
微笑みではなく笑って、それでも顔は上げられず、団長は席を立ち、震える声で言いました。
「けれど、今も少しつらいかな、その、涙をこらえるのが。まさかこんなこと、きっと誰も僕を許してくれないとばかり思っていたから…。」
団長はもうほとんど泣くのを堪えられずに、笑う頬に伝う涙を拭って、扉をすり抜けるようにダイニングルームを出ていきました。
「ごめんね、僕、あの、ちょっと、出てくるね。」
ほとんど消え入りそうな呟きのあと、ほんの少しのあいだ団長の微かな嗚咽が聞こえましたが、ゆっくりと足音が遠ざかって、じきにそれは消え、そして何も聞こえなくなりました。ダイニングルームに残された僕たちは、誰もがあまりに疲れ切っていて、誰も声を発すことなく、そして、ただ一つ鳴っていた暖炉の炎がはぜる小さな音も、意識に入ってこなかったのです。
レオナルドとウーゴ、リコリスは、気づけば机に突っ伏して眠ってしまっていました。
明け方に警報器が鳴って、ピエロの脱走とともにカーリーが消え、誘拐された彼女のための作戦会議で、過去団長がカーリーを誘拐した組織の人間だったこと、団長に頼ってはいけないことを団長自身に通告されたのです。
脱走したサイコパス・ピエロの確保に団長が一人で向かったと知ったときの恐怖、カーリーがいなくなったことへの衝撃と悲しさ、団長に頼らずに作戦を成功させることへの不安に、僕たちはみんな、作戦会議を再開するにはくたびれすぎていました。
先に寝入ってしまった三人からは少し遅れて、僕も重いまぶたをつむり、テーブルに突っ伏して、気だるい眠気に抗うことなく意識を手放しました。
攫われた彼女は、果たして眠り、休めたでしょうか。
目が覚めたら、僕たちは彼女のために動くのです。