小児性道化師症候群【第七章:決行1】

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【第七章:決行1】

団長と別れてから、あの大きな出来事が始まったのはすぐのことでした。僕がバスのステップから降り、外から団長を見上げる僕と、ウーゴ、レオナルド、リコリスに団長が「行ってらっしゃい。」と言い、バスのドアが自動に閉まり、走り去って、その次にはもう始まったのです。

真っ暗な森でした。僕はいなくなったバスをまだ目で追って、レオナルドとウーゴは二人とも辺りを警戒し、うかがっていました。リコリスは、どうしていたのでしょうか、僕はバスが行った道を見ていたけれど、二人の警戒するのは感じていたのです。けれども、このときリコリスは警戒していなかったようだったし、彼女がどう感じているのか、僕は感じられませんでした。

ガサガサと音がして、レオナルドがはじかれたようになって銃を構える腕に力が入り、ウーゴは少し迷ったように銃を持つ手をおろしました。音がした太い木の向こう側から人が出てくるより前に、ウーゴの目は大きく見開き、そこを見つめていました。きっと彼の警戒は誰よりも鋭かったので、木に隠れて顔だけのぞかせるのが誰だか気づいたのでしょう。ウーゴは何も言わず、悪戯に笑ったカーリーが木の向こうからひょこりと顔を出しました。

色々なことが同時に起こりました。

まず僕はカーリーがいることに気づき、嬉しくなりましたが、ウーゴとレオナルドの様子がおかしいのにも気づいて、何も言えませんでした。同時に、リコリスがとても嬉しい高い声で「カーリー!」と呼び、「会いたかったわ、カーリー!」とまた言いました。カーリーはリコリスの歓声に嬉しそうにはにかみましたが、何も言わず、僕たちに近づいて来ませんでした。

レオナルドはカーリーをちらりと見ると、何も言わず、嬉しそうに笑うこともなく、カーリーが出てきた森の中を見つめ、握った銃を構えたままいました。僕はレオナルドを見て、レオナルドだけが何か重大なことに気づいて、そのためにカーリーに反応しないのだと分かって、銃を取りました。僕はまだ、そのときまでガンホルダーから銃を抜いていなかったのですが、銃を抜いたとき、自分がもう一丁銃を持っていることに気づきました。ズボンのポケットに、僕たちのものと同じ銃が入っていたのです。取ってみるとそれはカーリーの銃でした。バスを降りたときに団長が入れたのでしょう。

僕がカーリーの銃を持っていることを知らせようとレオナルドを呼ぶと、彼は無言でうなずいて僕に応え、直後二人に叫びました。

「リコ、カーリーに寄るな!ウーゴも下がれ!」

カーリーがサイコ・ピエロになっていた場合、本来の作戦では、レオナルドに代わってリコリスが指揮を執り、僕とウーゴが他のピエロと戦い、レオナルドがカーリーを保護するか、あわよくばサイコ・ピエロから引き戻す手筈でした。

「リコリス、ウーゴ!お前らは戦うな!」

でも、二人は戦闘不能になってしまいました。リコリスとウーゴが生きていたカーリーに再開してから何を感じていたのかは分かりませんが、二人はカーリーのいない、七日間の作戦会議中にひどく心を痛めつけられていたのです。指揮権はレオナルドに戻り、レオナルド指揮官はリコリスとウーゴを戦力から外しました。

「どうしたのウーゴ、どうして泣くの。」

僕はウーゴが、レオナルドと僕と、そしてリコリスの後ろに立っていて、そこで困惑し、今にも泣きだしてしまいそうに弱っているのを感じていました。

「チャーリー‼」

レオナルドが、指示するべきことを考えながらも、混乱して焦っていました。僕たちは七日間の作戦会議の間からだんだんと心が衰弱しつつあって、とうとう二人が戦えなくなりました。団長はいません。状況はどうしたって不利です。

「ねぇカーリー、おいでなさいよ!あたしたちと帰りましょう!」

「ダメだリコリスあいつはちがう!」

リコリスにはカーリー”しか”見えていません。衰弱した彼女の心はカーリーが生きていると告げられた嬉しいショックに耐えられなかったのです。

「カーリーはサイコパス・ピエロなんだ!」

レオナルドの声は追い詰められていました。

「戦わなくちゃ。」

僕は自分でも気づかないうちに声に出して言い、そして森の中に何発か撃ちました。混乱が一気に晴れ、レオナルドが、今度は落ち着いた声で僕を呼び、言いました。

「もう一人サイコ・ピエロがいる。まだ隠れてる、カーリーの後ろだ、もうすぐ来る。だがカーリーもピエロだ、あいつはきっと襲われない。」

「そうだね。もう一人を先に倒した方がいいよね。でもカーリーと戦闘になるかもしれない。」

「ああ。なるだろうな。リコと、ウーゴは?」

「君の言う通り!」

次の瞬間には僕とレオナルドはもう森の中の小さな音と気配のする一箇所を続けざまに撃ちました。当たったのか当たらなかったのか、とにかくカーリーは森の中に振り向き、笑いかけると、彼女の背後にはもう一人、サイコパス・ピエロがいました。

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