【第七章:決行 2 】
「ニコ。」
彼女はそのピエロの顔に手を伸ばし、そっと頬にさわり、そしてそのピエロに後ろから首に手をまわして頭を抱かれました。
「ニコ、来たの。」
レオナルドの銃をかまえる手が下がって、銃はだらりと彼の右手にぶら下がりました。
カーリー以外、誰の声も聞こえませんでした。でも、ニコラス・ダリアは身をかがめて、二本の腕に抱いたカーリーの頭に顔を寄せ、そこで何やら、僕たちには聞き取れない低い声でささやきました。
そして、ニコラス・ダリアが顔を上げ、腕を外し、ほんの少し、カーリーから離れて下がりました。
カーリーが、高く明るい声で笑いました。
「ねぇ、ねぇレオナルド。」
僕は自分でも恐ろしいくらいに抑えつけられた低い声で、ジッとカーリーを見つめ立ちすくむレオナルドを呼びました。
「カーリー、ねぇカーリー!いやよ!今のあなた、あたしイヤなの!ねぇ、帰って来てよ!」
リコリスがわめき叫びました。
ウーゴはいったん止まった涙のあとをぬぐうこともせず、リコリスを見、レオナルドと僕の背中を交互に見ました。
ニコラス・ダリアが、カーリーに銃を渡しました。背後から、彼女の目の前にぶら下げるようにつまんで、差し出したのです。
カーリーは黒い大きな銃を両手で受け取り、左の手に持って、手の中でくるくると弄び、そしてそれを握り、持ち上げ、両手でかまえました。
誰に、銃口を向けたのでしょうか。
僕は僕の銃を握り直し、それがもうさっき撃ち切ってしまって空っぽだと分かって、落として捨てました。代わりにカーリーが寮に置いていった銃を取ってかまえ、カーリーが撃つよりも先に引き金を引き、もう一度、今度はニコラス・ダリアを、狙ってまた強く銃を握り、引き金を引こうとしました。
悲しい悲鳴でした。
弾が当たって、カーリーは泣き叫びました。僕の手からは銃がズルリとすべり落ち、ガチャンと音を立てました。
カーリーは地面に倒れてうずくまり、背中を大木に押しつけて、痛くてあばれて泣いていました。彼女が激しく動くたび、大木の上の方で葉っぱがやさしく揺れました。
僕も、地べたにうずくまって泣いてしまいそうでした。涙があふれて出ました。声は出なかったけれど、レオナルドが泣いているのが聞こえました。