路地裏の舞台で、踊り子が踊る。
「きれいな踊だね」と声をかけても、顔の見えない踊り子は止まらない。それの待つ人はあなたじゃない。立ち去れば良いのに、あなたは立ち止まった。よれよれの新しくないよくある型のスーツを着て、退屈な革の鞄を左手にさげて。
あなたはすべてが似つかわしかった。踊り子の顔が見える世界、顔の見える踊り子しかいない世界、踊り続けるこれのいない世界に。
路地裏らしい汚い舞台で、あれは踊った。きらきらしたピンク色のビーズと、光を暗く鈍く反射する紫のスパンコールがいっぱいの、レース地の衣装を着た体で。首から下は、若くてみずみずしく力があった。首より上は、紙袋をかぶっていた。頭は四角くて茶色で、カサカサ音が鳴った。体はたまにシャンと鳴った。しばらく待てばいっぺん、またしばらく見ているともういっぺん。
「これはどうやら女らしい」
旅の男が通りすがりに言った。男は踊り子に一瞥もくれなかった。男はあなたに通りすがりに一瞥して、あなたに「これはどうやら女らしい」と言った。あなたは応えなくてよかった。
「そうだね。」
あなたは答えた。あなたが答えたから、あなたは応えなくても良かったことになった。あなたが答えてあげなければ、あなたは応えてあげるべきだということになっていた。どちらにせよ、男は通り過ぎたけれども。
男は大きなローブを着ていた。茶色くて固くて、古い埃臭いじゅうたんみたいなやつを。頭まで被りこんで、顔は少しも見えなかった。旅の男は人間だった。くたびれた老いた狼みたいな男で、気難しい求道者だけど、考えることが容赦されて、安らかな男は機嫌がよかった。男が安らかなまま放っておかれるのは、きっと明日の朝まで続かないだろう。
男はあなたに一言言ってみながら、踊り子の頭から紙袋をもぎ取った。
紙袋を脱いだら、踊り子は踊らなくなった。
汚い路地裏の舞台の上で、一瞬踊り子は立ち止まった。ほんの瞬き一つの間だった。
塵臭い風が端の破けた黄ばんだビラを一枚転がし、路地裏の狭い道に吹いた。
通り過ぎた男はもうすでに紙袋片手に去っていた。きれいな踊り子はすえた臭いの風に吹かれて消えた。あなたは一人取り残された。取り残されて微笑んだ。
「君はきれいだ」
路地裏にまた風が吹き通した。
もうだれもいなかった。